好きになった人
相手がいる人を好きになる。
ずっと、ずっと昔の話。
隣の席の男の子を好きになった。
色が白くて、変わった人だった。
大人しかったけど、陰キャでもなかった。
そんな彼には、彼女がいた。
同じクラスに彼女がいるのを知っていた。
『どうして彼は彼女を選んだのだろう』と
思うくらいには雰囲気の違う2人だった。
でも2人の仲は約半年ほどだった。
そんなに長く一緒にいるなら、
きっとどこか2人にしかわからない幸せが
そこにはあるのだろうと考えていた。
だから、そのままでいいと思っていた。
密かに好きでいられればいい、
2人で出かけなくていい、
ただ学校で話せる時間が楽しく過ごせれば。
でも、そうもいかなかった。
『あの2人、別れそうらしいよ』
あたしの友達があたしの気持ちを知ってか
こっそりと教えてくれた。
人は欲深いもので、
どうしてかあたしは
彼が手に入るかもしれないと思った。
その日、あたしは
彼に小さな紙切れを渡した。
『彼女とさ、別れそうなの?笑』
笑 をつけておけば
なんでも許されると思っていたような文面だ。
『うん、ちょっとね』
彼からもらった紙にはそう書かれていた。
そのまま根掘り葉掘り聞き続けると
彼女が重すぎる、嫉妬するくせに
自分は男の子と遊びに行く、
元々そんなに好きじゃなかった などと
彼女に対しての不満が出て来た。
その時あたしは
嬉しかった。
この人はあたしのものになる と
確信した。
そのあとは早かった。
彼をそそのかして別れを告げさせた。
そんな気持ちなら
一緒にいる相手がかわいそうだよ と
もっともらしいことを言って。
数日後に彼から手紙をもらった。
『別れたよ』 と書かれていた。
その手紙に
じゃあ あたしと付き合ってほしい と書いて返した。
返事は ◯ だった。
あたしはしてやったりと思っていた。
やっぱり、
彼と彼女は釣り合っていなかったのだ、
あたしのものになればよかったのだ と。
あとあと彼から聞いた話、
彼女が嫉妬深くなったのは
おそらくあたしのせいだった。
隣の席でいつも話していたし、
休み時間も一緒にいたのだ。
そりゃあ嫉妬するに決まっている。
あたしだってする。
そういう意味では、
略奪愛だったのかも知れない。
そんな彼も、
今となってはどこで何をしているのか
なんなら生きているのかもわからない。
数年前に、駅で見かけて
『こんな顔だったっけ?』と
少しがっかりして以来、
彼の話を聞きさえもしない。